少し前に、マツモトキヨシの音商標が、登録される運びになったとの報道がありました。

商願2017-7811
20210929_マツモトキヨシ音商標
↓ 知財高裁判決を伝える記事



↓ 特許庁上告断念を伝える記事



経緯としては、特許庁で拒絶査定、拒絶査定不服審判でも原査定維持の審決となっていたものが、知財高裁での審決取消訴訟で逆転し、特許庁が上告を断念したために、審判に差し戻されることになったというものです。今後、登録を認める審決が出ることになりますので、出願人が登録料を支払うと登録されることになります。

拒絶理由として争点になっていたのは、商標法4条1項8号に該当するか否かという点です。

【商標法】4条1項8号
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(省略)
他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)


判決では
商標法4条1項8号の趣旨について、過去の判例を引いて次のように述べています。

商標法4条1項8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称 等を含む商標は,その承諾を得ているものを除き,商標登録を受けること ができないと規定した趣旨は,人は,自らの承諾なしに,その氏名,名称 等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにある ものと解される

そして、

同号は,出願人の商標登録を受ける利益と他人の氏名,名称等に 係る人格的利益の調整を図る趣旨の規定であり,音商標を構成する音と同一の称呼の氏名の者が存在するとしても,当該音が一般に人の氏名を指し 示すものとして認識されない場合にまで,他人の氏名に係る人格的利益を 常に優先させることを規定したものと解することはできない。
 そうすると,音商標を構成する音と同一の称呼の氏名の者が存在すると しても,取引の実情に照らし,商標登録出願時において,音商標に接した者が,普通は,音商標を構成する音から人の氏名を連想,想起するものと 認められないときは,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識 されるものといえないから,当該音商標は,同号の「他人の氏名」を含む 商標に当たるものと認めることはできないというべきである。

と判示しています。
そして、本件へこの判旨を当てはめた結果、

「マツモトキヨシ」という言語的要素からなる音から,通常,容易に連想,想起するのは,ドラッグストアの店名としての「マツモトキヨシ」,・・・であって,普通は,・・・人の氏名を連想,想起するものと認められないから,当該音は一般に人の氏名を指し示すものとして認識されるものとはいえない。

として、4条1項8号に該当せず、登録されるべきと結論づけています。

あてはめにあたっては、「取引の実情に照らし」ということが重要で、本件でいうと、CMや店舗内で繰り返し流されて著名であった点が考慮されています。
また、(判決に明記はありませんが)言語的要素以外の要素との結合である音商標であった点も大きいと思います。通常の口調で読み上げた「マツモトキヨシ」の音と、本件商標の独特のリズムの「マツモトキヨシ♪」の音とでは、やはり想起するものは異なってくるのではないでしょうか。

この判決を踏まえると、
取引の実情を踏まえて、商標に接した者が、その商標をどのように認識するかが、ポイントになるものと思います。そして、本件で示された判断手法は、音商標に限らず、商標法4条1項8号を巡る判断全般に適用になるものと思われます。一部の解説記事等で、射程が音商標に限られるかのような記述も見受けられますが、音商標であるか従来からの文字商標であるかは、「取引の実情」に影響するので結論は変わってくる可能性はあるものの、判示された判断手法自体は、音商標以外についても及ぶものと考えます。


今回の判決は、条理解釈としては、いたって妥当な判断と思います。
だた、商標法の文理からは外れてしまっていますので、次回の法改正で対応していくべきとも思います。

例えば

他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称一般に認識される標章を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)


程度でしょうか。